ユーザーは Azure でホストされている仮想マシンや Kubernetes のコンテナーへ、通常インターネットを経由してアクセスします。ユーザー(オンプレミス)から Azure へのデータ送信(イングレス)には料金がかかりませんが、Azure(クラウド)からユーザーへのデータ送信(エグレス)には「帯域」の料金が課金されます。
帯域の料金は以下のページで確認できますが、日本リージョンからのエグレスの場合、100GB を超えるデータ送信は 1GB あたり約 18 円で課金されます。
仮想マシンやコンテナーで実行しているサービスにもよりますが、場合によってはこのエグレスの帯域の料金が大きなものになる場合があります。
Azure のルーティング
Azure とユーザーとの間の通信は、通常ユーザーの場所に最も近いエッジ POP(Point of Presence、Azure と外部のネットワークの接続点)を自動的に経由するように構成されます。例えば東日本リージョンでホストされている仮想マシンにシンガポールからアクセスする場合、イングレスのネットワーク トラフィックはまずユーザーの ISP(Internet Service Provider)を経由してシンガポールの POP に転送され、そこから Microsoft のグローバル ネットワークを経由して日本の Azure データセンターに到達してリソースのパブリック IP アドレスに着信します。Azure からのエグレスの場合も、トラフィックはリソースのパブリック IP アドレスから  Microsoft のグローバル ネットワークを経由してシンガポールの POP に転送され、そこからユーザーに送信されます。
※POP は全世界で 165 か所以上設置されています。

Microsoft のグローバル ネットワークは 16 万マイルを超えるファイバーで構成された、Microsoft が管理する世界で最大のネットワーク(WAN)です。グローバル ネットワークは非常に高い信頼性と可用性を確保するために複数の冗長ファイバー パスを使用しています。またソフトウェア定義の WAN コントローラーによってトラフィックが管理され、トラフィックに対して待機時間の短いパス選択が保証され、最上級のパフォーマンスが提供されます。
このような、Microsoft のグローバル ネットワークを経由することを「Microsoft グローバル ネットワーク経由のルーティング」と呼びます。通常パブリック IP アドレスを作成すると、その IP アドレスはグローバル ネットワーク経由のルーティングが設定されます。
そのため、ユーザーは何も設定しなくても Microsoft グローバル ネットワークの高速・低レイテンシ・高信頼性の恩恵を受けることができますが、その代わり グローバル ネットワーク利用のためのエグレスの帯域料金を支払わなければなりません。
インターネット経由のルーティング
Azure 上の仮想マシンや Kubernetes のコンテナーで実行されているサービスからのエグレス データ量が大きく、システム コストの大きな部分を占めている場合、ルーティングを変更してコストを減らすことができます。
通常の「Microsoft グローバル ネットワーク経由のルーティング」ではユーザー最寄りの POP まで Microsoft グローバル ネットワークを経由しますが、これを Azure サービスの最寄りの POP でパブリック インターネットやユーザーの ISP のネットワークに接続するように構成すると、帯域の単価を下げることができます。このようなルーティングを「インターネット経由のルーティング」と呼びます。

東日本リージョンでホストされている仮想マシンにシンガポールからアクセスする場合、「インターネット経由のルーティング」ではイングレスのネットワーク トラフィックはまずユーザーの ISP(Internet Service Provider)のネットワークとパブリック インターネットを経由してに東日本リージョンのデータセンターの最寄りの POP に転送され、そこから Azure データセンターに到達してリソースのパブリック IP アドレスに着信します。Azure からのエグレスの場合も、トラフィックはリソースのパブリック IP アドレスから Azure データセンター最寄りの POPに転送され、ここからパブリック インターネットと ISP のネットワークを経由してユーザーに送信されます。
「インターネット経由のルーティング」の場合、エグレスの帯域の料金は、日本リージョンからのエグレスの場合で 100GB を超えるデータ送信が 1GB あたり約 9 円と「Microsoft グローバル ネットワーク経由のルーティング」の場合の半額になります。ただし「Microsoft グローバル ネットワーク経由のルーティング」と比べてパブリック インターネットや ISP のネットワークを経由する距離が長くなるため、速度やレイテンシ、信頼性が劣る場合があります。
シナリオ別でどちらを選択するのが良いか、見てみましょう。
- 低レイテンシが求められるサービス(API のホストなど):Microsoft グローバル ネットワーク経由のルーティング(品質重視)
- 開発環境・テスト環境:インターネット経由のルーティング(コスト重視)
- ログのエクスポートやデータのバックアップ:インターネット経由のルーティング(コスト重視)
- 業務用の本番アプリケーション:Microsoft グローバル ネットワーク経由のルーティング(品質重視)
- リソースのあるAzure リージョンの地域以外からのアクセスが稀なシステム:インターネット経由のルーティング(グローバルネットワークの恩恵が少ない)
高い速度・低いレイテンシ・高い信頼性が必要な場合は「Microsoft グローバル ネットワーク経由のルーティング」、そうでない場合でコストを重視する場合は「インターネット経由のルーティング」を選択するのが良いでしょう。
ルーティングを構成する
ルーティングの種類はパブリック IP アドレス リソースを作成する際に構成できます。作成済みのパブリック IP アドレスのルーティングを変更することはできません。
Azure ポータルであれば、パブリック IP アドレスの作成画面に以下のような「ルーティングの優先順位」の選択肢が表示されます。既定では「Microsoft ネットワーク」になっていますので、「インターネット経由のルーティング」にする場合は「インターネット」にチェックを入れてパブリック IP アドレスを作成します。

Azure CLI では以下のようなコマンドとなります(リソース グループ名・パブリック IP アドレス名は適宜構成してください)。
※「ip-tags 'RoutingPreference=Internet'」の部分がルーティングの設定です。
az network public-ip create
  --resource-group myRG
  --name myPublicIP
  --version IPv4
  --ip-tags 'RoutingPreference=Internet'
  --sku Standard
  --zone 1 2 3
詳しくは、以下の記事も参照してください。
このようにして作成した「インターネット経由のルーティング」のパブリック IP アドレスを、仮想マシン(仮想ネットワーク インターフェース)などに割り当てます。「インターネット経由のルーティング」のパブリック IP アドレスがサポートされている主な Azure リソースは以下の通りです。
- 仮想マシン (VM)
- 仮想マシン スケール セット (VMSS)
- Azure Kubernetes Service (AKS)
- パブリック・ロード・バランサ(NICベースのバックエンド)
- アプリケーション ゲートウェイ
- Azure ファイアウォール
- ストレージ アカウント (BLOB、ファイルなど)
サービスやアプリケーションの特性に応じてルーティングを設定することで、Azure の利用コストを最適化(軽減)してください。
参考情報
- Azure routing preference: A hidden lever for performance vs. cost trade-offs | Microsoft Community Hub
- Azure でのルーティング優先設定 – Azure Virtual Network | Microsoft Learn
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